(文献紹介)サウジアラビアのChoosing Wisely
(2025年4月14日)
サウジアラビアにおける国家主導のChoosing Wiselyの成果について、East Mediterranean Health Journal誌2025年3月号に発表されました。
Alsagheir A, Hassanein MH, Alshahri RA. A national intervention to reduce harm by combating overuse of medical services in Saudi Arabia.East Mediterr Health J. 2025 Mar 26;31(3):182-190. doi: 10.26719/2025.31.3.182.
サウジアラビアでは、2021年に国レベルの運営委員会ができ、計画的にChoosing Wiselyを普及・実装を進めています。これまでに20ある地域のうち16でChoosing Wiselyプログラムが(少なくとも一部は)実践されており、9学会が推奨を作成しています。たとえば、ある地域の小児病院では、上気道感染症に対する抗菌薬の使用が25%減るなど、目に見える効果をあげていました。
(2025年4月01日)
Shin S, Roberts SB, Sachar Y, et al. Clinical impact of Choosing Wisely Canada hepatology recommendations: an interrupted time-series analysis using data from GEMINI.
BMJ Open Qual. 2025 Mar 23;14(1):e003142. doi: 10.1136/bmjoq-2024-003142.
検討した推奨は以下の2つです。
・肝性脳症の診断または管理目的で血中アンモニア検査をオーダーしない
・肝硬変の患者の低侵襲的処置に際してルーチンに新鮮凍結血漿、ビタミンK、血小板製剤を輸血しない
オンタリオ州の23病院の入院患者のデータを、2015年4月から2022年3月分まで用いて調べたところ、肝性脳症コホート(1万7906例)では、全期間でみるとわずかに減少していました(1週間当たりの入院当たりで0.002 件の減少 (95% CI −0.00413 to −0.000009))。一方、肝硬変コホート(1万1676例)では、推奨後に新鮮凍結血漿の輸血は増え、血小板やビタミンKの輸血に変化は見られませんでした。著者らは輸血が減らなかった原因として、経験に基づく「慣れ」「習慣」が関係しているかもしれないと述べていました。
推奨を発表しただけでは持続可能な行動変容は起こらないかもしれないという結果は、先行研究でも見られています。Choosing Wiselyも、せっかく公表した推奨を、いかに普及させ、診療に実装するかが問われています。
(文献紹介)Choosing Wiselyの推奨をイラストで紹介
(2025年3月27日)
Choosing Wiselyの推奨(無症状の細菌尿に対して抗菌薬を使わない)を、イラストでわかりやすく患者に伝える取り組みが、3月19日にInfection誌に発表されました。
Heenemann K, et al. Creative illustration for choosing-wisely recommendations on asymptomatic bacteriuria of the Network Young Infection Medicine e.V. – jUNITE. Infection. 2025 Mar 19. doi: 10.1007/s15010-024-02434-3. Online ahead of print.
ドイツの感染症学会のコンペで賞を取った作品が紹介されています。一部の例外を除いて抗菌薬治療は必要ないという内容です。
(2025年3月17日)
腰痛に対する画像検査を減らすというChoosing Wiselyの推奨を促進する目的で、患者と協働でリーフレットを開発したというデンマークの研究が、3月6日にPatient Education and Counseling誌にオンライン発表されました。
リーフレットの開発は、1)腰痛に悩む人にとってどんな情報が必要なのかについて先行研究を系統的に調べる、2)腰痛の診療に従事する5人(GP、理学療法士、カイロプラクター、リウマチ専門医、脳神経外科医)の意見を聞く、3)プログラム理論を構築する(対象者、行動、効果的なメカニズム、短期のアウトカム、中期のアウトカム、長期のアウトカム)、4)エンドユーザーである腰痛の人(18人)へのグループインタビューを基に修正を加える--という4段階で行われました。実際にできあがったリーフレット(英語版)も載っています。
(2025年3月10日)
血流感染症(bloodstream infection)に対する抗菌薬治療の期間(7日vs14日)を検討した国際共同オープンラベル非劣性ランダム化比較試験(BALANCE試験)の結果が、NEJM3月13/20日号に発表されました(オンラインでは昨年発表済み)。
BALANCE Investigators. Antibiotic Treatment for 7 versus 14 Days in Patients with Bloodstream Infections.N Engl J Med. 2025;392(11):1065-1078. doi: 10.1056/NEJMoa2404991. Epub 2024 Nov 20.
血流感染症の入院患者(ICUを含む)を、7日間治療群と14日間治療群にランダムに割り付け、抗菌薬治療を行いました。抗菌薬の種類や量、投与経路は担当医に任されました。治療開始90日以内の死亡は、7日間群14.5%(261/1802)、14日間群16.1%(286/1779)、両群間の差は-1.6(95%信頼区間 -4.0 to 0.8)で非劣性マージン(+4%)を下回り、非劣性を達成しました。
治療期間を短縮することで懸念されるクロストリジウム・ディフィシル感染は7日間群1.7%(31/1814)、14日間群2.0%(35/1794)、耐性菌による二次感染は7日間群9.5%(173/1814)、14日間群8.5%(152/1794)で、いずれも両群間に有意差はありませんでした。
著者らは、7日間治療を採用することは高額薬剤や技術を必要とせず、(抗菌薬の)薬剤費を節約でき、菌の耐性獲得の面でも利益をもたらす可能性があると指摘していました。
(2025年3月10日)
理学療法(physical therapy)に関する各国の学会が、Choosing Wiselyの推奨を発表しているかを調べた研究が、3月1日にBrazilian Journal of Physical Therapy誌に発表されました。
Yi LC, Zadro JR, Soares RJ, Meziat-Filho N, Reis F. Mapping the Choosing Wisely campaigns in physical therapy: Are we missing an opportunity to reduce low-value care? Braz J Phys Ther. 2025 Mar 1; 29(3): 101192. doi: 10.1016/j.bjpt.2025.101192. Online ahead of print.
「World Physiotherapy」のウェブサイトに載っている世界の理学療法系の学会、計127学会のうち、7学会(ブラジル、米国、ノルウェー、イタリア、オーストラリア、スペイン、スイス)がChoosing Wiselyの推奨を発表しており、その半数近く(48.4%)が筋骨格系の理学療法に関するものだったとのことです。
(2025年3月03日)
カナダ内科学会(The Canadian Society of Internal Medicine)による、高価値かつ低炭素のケアに役立つChoosing Wiselyの8項目の推奨が、2月27日にJournal of General Internal Medicine誌にオンライン発表されました。
Gaudreau-Simard M, Shetty N, Silverstein WK, Luo OD, Stoynova V. Eight Ways General Internists Can Practice High-Value, Low-Carbon Care: The Canadian Society of Internal Medicine’s Climate Conscious Choosing Wisely Canada Recommendations. J Gen Intern Med. 2025 Feb 27. doi: 10.1007/s11606-025-09441-6. Online ahead of print.
具体的には以下の8項目です(日本語訳はDeepLの助けを借りました)。
(1)経口抗菌薬で安全に治療できる患者に対して静注抗菌薬を処方しない
(2)経口薬が有効で、患者が好み、医師が安全だと感じていれば、ヘパリン/低分子ヘパリンを処方しない。
(3)同等の有効性を持つ環境により優しい代替品が利用可能で、技術が十分あり、患者の好みに配慮していれば、温室効果ガスを大量に消費する定量吸入器を処方しない
(4)予想される予後や余命について話し合い、ケアの目標を探る以前に検査や介入を推奨/指示しない
(5)特に鎮静薬、PPI、吸入薬は、臨床的適応を確認せずに継続しない
(6)入院患者の管理に変更がなさそうなら毎日の血液検査を指示しない
(7)手指衛生で十分なら滅菌されていない使い捨て手袋を使用しない
(8)オンライン診療が臨床的に適切で、患者が希望すれば、対面でのフォローアップ診療の予約をしない
(2025年2月28日)
台湾や韓国では(日本でも)CT検査機器の普及に伴い、CTを用いた肺がん検診が広く行われるようになっていますが、ヘビースモーカーはともかく喫煙歴のない人にまでCTを用いた肺がん検診を行うことは、過剰診断を増やし、その結果として肺切除術を増やしているとする分析論文が、2月6日にBMJに発表されました。
Welch HG, Gao W, Gilder FG, et al. Lung cancer screening in people who have never smoked: lessons from East Asia. BMJ 2025;388:e081674.
https://www.bmj.com/content/388/bmj-2024-081674
確かに、上海、韓国、台湾のデータ(Fig2)によれば、近年、早期の肺がんの罹患が増えている一方で、進行肺がんの罹患は同程度で減ってはいません。
(文献紹介)検査に関するソーシャルメディアの投稿
(2025年2月28日)
医学検査に関するソーシャルメディアへの投稿内容やそのトーンを分析した横断研究の結果が、2月26日にJAMA Network Open誌に発表されました。
Nickel B, Moynihan R, Grundtvig Gram E, et al. Social Media Posts About Medical Tests With Potential for Overdiagnosis. JAMA Netw Open. 2025;8(2):e2461940. doi:10.1001/jamanetworkopen.2024.61940
ソーシャルメディア(InstagramとTikTok)上に投稿された5種類の検査(全身MRI、がん早期発見、抗ミュラー管ホルモン(不妊治療に使われる)、腸内細菌叢、テストステロン)に関する投稿(英語のみ)、計982本を抽出して内容を分析しました。その結果、検査の利益に関しては87.1%(855/982)で言及されていたのに対して、害については14.7%(144/982)にとどまっていました。また、83.8%(823/982)は宣伝調のトーンで、科学的根拠が明示されていたのは6.4%(63/982)だけでした。
著者らはこれらの結果から、ほとんどの投稿は誤解を招き、過剰診断/過剰使用を含む重要な害について言及していないと結論づけています。
(2025年2月20日)
5種類以上の薬を飲んでいる高齢者(65歳以上)に、減処方に対する意向を尋ねた横断研究の結果が、2月10日にJAMA Network Open誌に発表されました。
Vidonscky Lüthold R, Tabea Jungo K, Weir KR, et al. Older Adults’ Attitudes Toward Deprescribing in 14 Countries. JAMA Netw Open. 2025; 8(2): e2457498.
回答は、ベルギー、ブルガリア、クロアチア、ドイツ、ハンガリー、アイルランド、イスラエル、イタリア、オランダ、ポーランド、ポルトガル、スペイン、スウェーデン、スイスの計1340人です。主な結果は以下です。
「もし医師が可能だと言ってくれたら、いつもの薬のうち1つかそれ以上をやめたい」
やめたい 1088(81%) やめたくない 239
「やめたらどうなるか知るために薬のうちどれか一つをやめてみたい」
やめたい 648(48%) やめたくない 682
「今の薬のリストのうち、やめたい、または量を減らしたい薬がある」
ある 589(44%) ない 726
やめたい薬として多く挙げられたベスト3は、利尿薬(diuretics)、脂質改善薬(lipid-modifying agents)、レニンアンジオテンシン系に働く薬(agents acting on the renin-angiotensin system)でした。
また、自分のかかりつけ医(GP)を高く信頼している患者は、減らしたい薬を挙げることが少ないことも分かりました。論文の著者は、薬の適切な使用には患者-医療者のコミュニケーションが重要だと述べていました。
(2025年2月19日)
スイスのGPを対象に、非特異的な急性腰痛に対する診療方針について、よくある2症例(架空のヴィニエット)の診療方針を問うアンケート調査の結果が、1月24日にスイス・メディカル・ウイークリー誌に発表されました。
Rrachsel M, Tripppolini MA, Jermini-Gianinazzi I, et al. Diagnostics and treatment of acute non-specific low back pain: do physicians follow the guidelines? Swiss Med Wkly. 2025; 155: 3697.
https://smw.ch/index.php/smw/article/view/3697/6146(heml)
https://smw.ch/index.php/smw/article/view/3697/6152(pdf)
回答者のうち、現在の診療ガイドラインを知っているのは61%、スイスのChoosing Wiselyの推奨を知っているのは76%に上りました。にもかかわらず、実際の診療は、これらの推奨とさほど一致していませんでした。
たとえば、診断に関して「MRI検査を行わない」という推奨に沿っていたのは、症例1では60%、症例2では34%、治療に関して「筋弛緩薬を使わない」という推奨に沿っていたのは、症例1では18%、症例2では20%にとどまっていました。
(2025年2月10日)
第12回CWJオンラインレクチャー(2025年2月9日開催)で演者の和足孝之先生が紹介してくださった、日本でかぜに対する不適切処方(potentially inappropriate prescribing)がどのくらい行われているかを調べた横断研究です。
Nakano Y, Watari T, Adachi K, Watanabe K, Otsuki K, Amano Y, et al. (2022) Survey of potentially inappropriate prescriptions for common cold symptoms in Japan: A cross-sectional study. PLoS ONE 17(5): e0265874. https://doi.org/10.1371/journal.pone.0265874
島根県の病院/診療所を受診し、調剤薬局に処方箋を持ち込んだ併存症のない「かぜ」患者136人を対象に、薬剤師2人と医師(処方医とは別)1人が、処方された薬が「不適切」か「適切」かを判定しました。その結果、「不適切」が89%(121人)に上り、「適切」は11%(15人)でした。
不適切な処方薬として最も多かったのは、細菌感染の症状がないのに処方された経口セフェム系抗菌薬と、呼吸器症状がないのに処方されたβ2刺激薬でした。
(2025年2月3日)
イスラエルの診療データを用いて、限局型大腸がんに対する経過観察目的のPETCT(Choosing Wiselyでは行わないよう推奨されている)について調べた後ろ向きコホート研究が、BMJ Oncology誌3巻1号(2024年12月)に掲載されました(発表は2024年8月7日)
Goldstein DA, Tschernichovsky R, Razi T, et al.
Choosing Wisely in oncology: are guidelines effective at preventing unnecessary diagnostics? The example of surveillance positron emission tomography for patients with localised colorectal cancer
BMJ Oncol. 2024; 3(1): e000391. doi: 10.1136/bmjonc-2024-000391.
この研究で使われたClalit Health Services(CHS)はイスラエル最大の医療保険組織で、人口の52%、450万人が加入しています。新型コロナに対するmRNAワクチンの有効性をリアルワールドで示した研究(NEJM2021; 384(15): 1412-23.)でもCHSの診療データが使われていました。
大腸がん患者1799人を対象にPETCTの回数を調べたところ、0回27.2%、1回20.2%、2回14.5%の順で、0回が最も多かったものの、半数以上の患者で1回以上行われており、10回以上行われていた患者も25人いました。1回の実施は許容する(ステージング目的等と解釈)とした場合、ガイドラインに反する実施が69%に上りました。
医療専門職のガイドライン(Choosing Wisely)があったとしても、PETCTがかなり行われていました。Choosing Wiselyを実装し、不要な検査を減らすには、よりプロアクティブな政策的アプローチが必要なのかもしれません。
(報道)メディカルトリビューンに小泉代表のインタビューが掲載
(2025年1月29日)
メディカルトリビューン(医療者向けメディア)に、 1月27日付でChoosing Wisely Japan代表の小泉俊三先生のインタビュー記事が掲載されました。
「その治療、ホントに必要?」 過剰医療を防げ!Choosing Wisely Japan代表に聞く
過剰医療の具体例、過剰医療が生じる理由、さらに、それに対してChoosing Wisely Japanが果たす役割などが、うまくまとめられています。
(2025年1月27日)
カナダのChoosing Wiselyが2019年から実施している「Hospital Designation Program(HDP)」の取り組みを紹介する論文が、1月21日にJournal of Hospital Medicine誌に発表されました。 Datta D, Day D, Soong C. Improving healthcare value: Choosing wisely canada’s hospital designation program J Hosp Med. 2025 Jan 21. doi: 10.1002/jhm.13593. Online ahead of print.
PMID: 39838712
フェーズ1(2019~2022)では、レベル1~3の3段階が設けられ、最高レベルであるレベル3では、Choosing Wiselyを病院の戦略プランの一部にすることなどが含まれます。一定の成果があったため2022年からはフェーズ2となり「質向上(quality improvement)」と「リーダーシップ」の2分類となりました。 経済的インセンティブや国からの押し付けではなく、根拠に基づくガイドラインの実装をめざす医療専門職の自発的な活動であることが特徴です。