医療における”賢明な選択”を目指して

“less is more”な管理を行うことの価値を知る

(2023年12月13日寄稿)

太田啓介

静岡県立総合病院集中治療センター 集中治療科/急変対応科

 “全てのものは毒であり、毒でないものはない。”

パラケルスス(スイス人医師,1493~1541)

 

■“Less is More 考える集中治療”(2021年、金方堂)の刊行とその反響

我々医療者の行為には、侵襲的なものや、効果効能が疑問視されているものも存在します。そして、それらはもれなくコストやマンパワーも必要とします。時にその有害性が命を脅かすことも稀ではありません。こと集中治療においては「重症だから」という理由だけで、詳細な病態や適応の評価もそこそこに、安易な薬剤投与や連日の検査などの医療的介入が行われることをよく目にします。しかし過度な医療行為は、パラケルススの言った通り“毒であり”、過ぎたるは及ばざるが如しであるということを肝に銘じなければなりません。すなわち、“less is more”な管理を行うことの価値を知る必要があります。そんな思いから、海外の集中治療系choosing wiselyとヨーロッパの集中治療医学会雑誌Intensive Care Medicineの特集である”less is more”シリーズの内容を紹介しつつ、最近の知見を踏まえて、世界標準のシンプルかつスタンダードな管理を提唱することを目的として拙著“Less is More 考える集中治療”(2021年、金方堂)は企画されました。

拙著出版後は院内外で少なくない反響を頂き、第50回日本集中治療医学会学術集会においても“less is more”をテーマの一つとしてピックアップされ、そこでの基調講演を含め、いくつか講演させて頂く機会にも恵まれました。さらに御縁を頂いてChoosing Wisely Japanの定例会議にも参加させて頂き、日本における集中治療系Choosing Wiselyの必要性も強く感じました。一方で、肌感覚としてはまだまだ十分にこの概念が普及しているとは言い難く、今後もこの重要なメッセージを発信し続けていきたいと考えております。

■医療者は、洗練された患者プランを提案できるデザイナーである

”less is more”とは、シンプルなものの方が、高度なものや複雑なものよりも優れている、という意味合いで使われる表現で、何かをやり過ぎてしまうことへの危惧がこの考え方の背景にあります。このフレーズは“God is in the details.(神は細部に宿る)”というモットーを掲げたことでも知られるドイツ人建築家ルートヴィヒ・ミース・ファン・デル・ローエ(1886~1969)が遺した言葉とされています。多くのデザイナーがこの言葉にインスピレーションを受け、シンプルでありながら美しいものをデザインするという一つの表現が生まれたそうです。医療においても同様で、余計なものが多すぎると本質的なものを見失ってしまう可能性があります。我々医療者も、洗練された患者プランを提案できるデザイナーとなり、真に重要なことに集中することが望まれます。

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