(2023年12月7日寄稿)
北澤京子(Choosing Wisely Japan)
■世界AMR啓発週間に寄せて
今年の世界AMR啓発週間(World AMR Awareness Week、2023年11月18~24日)のテーマは2022年同様、「一緒に薬剤耐性を予防する(Preventing Antimicrobial Resistance Together)でした。「一緒に」という言葉には、薬剤耐性はすべての人(や動植物、環境全体)にかかわる問題であり、医療従事者だけでなく、農業(畜産を含む)や水産業に携わる人、国や地域の行政担当者、さらに患者・市民も含めて、皆が抗菌薬の適正使用を心がける必要があるというメッセージが込められています。
抗菌薬の適正使用とは要するに、「正しい人(患者)に、正しい抗菌薬を、正しい時期に、正しい期間だけ」使用することです。当たり前のことのように思えますが、現実にはなかなかできていません。
これは新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の治療にもあてはまります。COVID-19の原因はウイルスなので、基本的に抗菌薬は無効です。にもかかわらず、COVID-19外来患者に対して抗菌薬が使用されている実態があります。
■米国と日本の研究の紹介
65歳以上のメディケア受益者に処方された薬剤を分析した米国の研究(Tsay SV, et al. JAMA. 2022; 327: 2018-9.)によると、2020年4月から2021年4月までにCOVID-19で外来受診した患者の約30%に抗菌薬が処方されていました。日本でも、診療所を受診した患者のデータベースを用いた研究(Miyawaki A, et al. JAMA Netw Open. 2023; 6: e2325212.)によると、2020年4月から2023年2月までにCOVID-19で外来を受診した約53万人のうち、約5万人(9.0%)に抗菌薬が処方されていました。
興味深いことに、抗菌薬の処方は診療所によるばらつきが大きく、抗菌薬の処方が多いトップ10%の診療所では29%に上ったのに対し、残りの90%の診療所では1.9%にとどまっていました。つまり、一部の診療所(の医師)だけがCOVID-19患者に対して抗菌薬をよく処方していたことになります。その理由は正確にはわかりませんが、若手医師に比べて年配の医師で処方が多かったという結果も出ており、論文の著者は、抗菌薬の適正使用に関するトレーニングの差によるものかもしれないと考察していました。
どのような立場であっても、抗菌薬の適正使用について関心を持ち続け、情報をアップデートすることの大切さを改めて感じました。